意地悪な彼ととろ甘オフィス
「なに先に帰ってんの? 待っててってメールしたのに見てねぇの?」
想いを通じあわせたあとも、響哉くんはたまにこういう口調になる。
一時期の意地悪な口調に。
感情的になったときに出るクセなんだろう。
つまりは、意地悪な態度も完全な演技ってわけではなくて、響哉くんのなかにある一部だったってことなのかなって理解している。
やきもちを焼かせてしまったり、心配かけてしまったときなんかはよく出てくる。
「だって、響哉くん、女性社員に囲まれてたし」
会社の前で待っていたら、響哉くんが数人の女性社員に声をかけられたのを見てしまった。
どうやらチョコを渡されているようで……そんなところ見たら、おとなしく待ってもいられなくてそのままここに来てしまった。
どっちみち、今日は響哉くんと寧々さんのお店に顔を出す予定でいたし、私がいないことに気付けば響哉くんもここに来るだろうと思ったから。
私以外からのチョコをもらわないでとは思わない。付き合いだってあるし。
でも、目の前でそれを見ていたくはなかった。
「なんだ、あれ見て……なに、もしかして俺のこと疑って――」
「あれ? 響哉くん、荷物それだけ?」
隣に座った響哉くんの荷物は、仕事で使っているバッグだけだった。
そこまで厚みもない。
当然のように、チョコ用の大きな紙袋をぶらさげてくるんだと思ってだけに驚いていると、響哉くんは呆れたような顔をした。
「もらうわけないじゃん。チョコなんか。……明日香のだけで充分」
「断ったの? でも、付き合いとか……」
「いや、受け取ったは受け取った。断る方が面倒だし。『営業課みんなで食べさせてもらうね』って受け取って、全部、課に置いてきた」
マフラー、コートの順番で脱ぎながら響哉くんが淡々と話すと、寧々さんは「うわぁ……ひどい男ねぇ」と感心したように言った。