意地悪な彼ととろ甘オフィス
「……っく。究極の二択」
頭を抱えた響哉くんを気にしてなんていられなかった。
寧々さんと響哉くんが……って考えただけで、咄嗟に身体が動いていた。
「え……」
カウンターに片手をつき、もう片方の手で寧々さんの腕を引っ張る。
前に傾いた寧々さんに顔を近づけて、オレンジチョコをかじりとった。
口の中に、アルコールとチョコの味が広がる。
残ったチョコをくわえたまま、茫然としている寧々さんをじっと見て口を尖らせた。
「響哉くんは、その……私の、なので」
いくら寧々さんとでも、ふざけてほしくない。
そう思い不貞腐れている私に、寧々さんは急に笑いだし……。
「冗談よ、冗談。明日香ちゃんってば結構男前なところがあるのねぇ」
そう、笑いながら言ったあと忠告した。
「でもね、今ので火をつけちゃったみたい。先に謝っておくわ。ごめんなさいね、私の悪ふざけのせいで」
なんのことだろう、と疑問を浮かべたと同時に、腕を強く引かれる。
ふたりぶんのコートやバッグを素早く持った響哉くんが、私の手を引いたままズンズンと歩いていく。
うしろで「ハッピーバレンタイン」と寧々さんの声が聞こえたけれど、振り向く暇もなかった。