意地悪な彼ととろ甘オフィス
「あるよ。さっき響哉くんが乱暴に投げた私のバッグのなかに。きっと粉々に割れちゃったと思うけど」
響哉くんはすぐに私のバッグをソファから救出して「あー、もう俺最悪……」とうなだれる。
そんな様子にクスクス笑いながら、響哉くんの手からバッグをとった。
そして、ベッドにぼふんと座り、中から小さな箱を取り出す。
隣に座った響哉くんは、手渡されるのを待っているみたいだった。
そわそわした空気がこっちまで伝わってくる。
箱を持つ手にギュッと力を込め、響哉くんを見た。
「あのね、これ、中身、中三のバレンタインに作ったヤツと同じのなの。だから、寧々さんにあげたヤツみたいに高級じゃないし、手が込んでもいないんだけど……」
中身は、手作りのトリュフ。
響哉くんが今日受け取ったチョコのなかでも、一番シンプルなものかもしれなかった。
中三のとき作ったチョコは、自分で食べる気にもなれなくて捨ててしまった。
そのときの悲しみがずっと心に残っているから、それをとかしてしまいたかった。
そんな想いをうまく言葉にできないでいると、響哉くんが私の手を上から握る。
「うん。ありがとう」
顔を上げると、やわらかく細められた目があった。
「明日香のチョコを受け取れなかったこと、本当のことを知ってからずっと後悔してたから嬉しい」
「……じゃあ、これ」
「うん。俺も好きだよ」と笑う響哉くんに、「そんなこと言ってない」と照れて怒る。
ラッピングを開けた響哉くんは、六個並んだトリュフを見ると顔をほころばせた。
本当に喜んでくれているんだと伝わってくる横顔にホッとしていると、響哉くんがさっそくチョコをひとつ摘む。
そして、口に入れ……ずに、唇ではさむと、「ん」と私の方を向いた。