お見合いさせられました!
その日一日、全く仕事に集中出来なかった。

書類を持つ手は何度も止まる。
パソコンの画面は真っ黒なまま。
山積みのファイルは一向に減ってはいかない。

私の頭の中は9割が五十嵐さんで埋まっている。
いつの間に五十嵐さんは私の中に入り込んだんだろう。
仕事が手につかない程に。


「奏美、ちょっと」

定時を過ぎた時、後ろから声をかけられて頭を上げた。
愛ちゃんは声を潜めながら、手招きしている。

会議室のドアに使用中の札を掛けて中に入る。


「辞令、発表されたね」


「あ~、うん。今朝ミーティングで聞いた」


「ついに守秘義務じゃなくなった!」

愛ちゃんは目を輝かせて楽しそう。
私はその辞令のおかげで、一日仕事にならなかったけど。
総務部で働く愛ちゃんは、すでに辞令を知っていたってことだね。


「とにかく五十嵐さんにちゃんと話しなさいよ。それから…」

愛ちゃんの顔から笑みが消えて、険しくなった。


「海外事業部の女子たちには気をつけたほうがいいかも」


「なんで?」


「噂好きな人が多いってのもあるし、あからさまに態度が違うし」










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