お見合いさせられました!
五十嵐さんの口元がわずかにニヤリとなったのを私は見逃さなかった。
それはほんの一瞬。
五十嵐さんはキリッとした真剣な目で、フロア全体を見渡している。
どこか冷徹で厳しい、人を寄せつけないような眼差し。
こんな五十嵐さん、初めて見る。


ウチの無表情部長に促されて、五十嵐さんは口を開いた。


「海外事業部の部長として月曜からお世話になります、五十嵐颯介です。よろしくお願いします」

低く、冷たい声が私の身体を駆け巡る。
これは仕事の顔ってヤツ?
この人は一体いくつの顔を使い分けているんだろう。

そんなこと露ほども知らない周りの人たちは歓迎の声を上げている。

無表情部長となにやら話をしていた五十嵐さんと目が合った。
なんだか恥ずかしくなって俯いてしまった。

聞きたいこと、言いたいことが山ほどあるのに、この場で声をかける勇気はない。

挨拶は終わったようだし、もう帰ろうかとバッグを握りしめたその時、五十嵐さんはみんなに聞こえるような、はっきりとした声で無表情部長に言った。










< 39 / 49 >

この作品をシェア

pagetop