ライアーピース
「若葉!」
改札の前で歩夢と待ち合わせた私は、
その聞き覚えのある声に顔をあげた。
スーツ姿の歩夢が私の方へ駆け寄ってくる。
私は髪を整えてじっと歩夢を見た。
急いだのか、息が上がっている。
「お疲れさま。
そんなに急がなくても良かったのに」
「ダメだよ。若葉をこんなところで
何十分も待たせちゃ。
どんな危ないやつがいるかわかんねぇしな」
「大丈夫だって!私、
もともと男勝りなくらい喧嘩は強いよ?」
「そういうことを言ってるんじゃない。
ナンパされるとか考えたことない?」
「・・・ない」
「まったく。若葉は
女の子だってこと、自覚しろよなー」
「はいはーい」
歩夢は呆れたように笑うと、
さりげなく私のバックを持ってくれた。
こういう自然なとこ、
優しくて大好きだ。
「今日はどこ行く?」
「んー、あ。
若葉の手料理が食いたい」
「手料理!?今から?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど・・・」
「ほら、スーパー行こ!」
私たちは今、半同棲状態。
そのほとんどが
歩夢のマンションで過ごしているんだけど、
こう一緒に買い物にいったり
同じベッドで寝るのには
まだ少しの恥じらいがある。
歩夢は私の手料理を
美味しいといって食べてくれるけど、
本当に美味しいかはわからない。
歩夢、優しいからなぁ。
スーパーに着くと私は手早く
カゴに材料を入れていく。
歩夢はふらっとどこかへ
行ってしまった。
ずっと付いて来られても
緊張するだけだから、
歩夢のその自由奔放なところが良い。
「えっと、お醤油は・・・」
醤油の買い置きが
なかったことを思い出して引き返す。
「あった」
お醤油コーナーで醤油を手に取ると、
ふと、懐かしい香りがした。
あれ?なんだろう。この香り。
香水?ううん、
シャンプーの香り・・・。
「・・・・陸?」