ライアーピース
Last Piece
それから数年。
楓が小学校に上がる年。
私は真っ黒なランドセルを背負った
楓と学校までの坂道を歩いていた。
「ねえ、お母さん。お父さんはー?」
「お父さんはねー、お仕事忙しいの。
会えるのはクリスマスでしょう?
それまでいい子にできるね?」
「うんー!でも、やっぱり
入学式、出てほしかったなぁ」
楓は寂しそうに足元の石ころを蹴飛ばした。
無理もないよね。
年に1回しか会えないとさすがに寂しいか・・・。
*
無事に入学式も終わり、私と楓は家まで歩く。
途中、楓が私の手を引っ張った。
「なあに、楓」
「ねえ、あのおじちゃん、
ずっとお母さんのこと見てるけど」
「え?」
楓が指さす方向に目を向けると、
私は驚きのあまり言葉を失った。
「陸・・・?」
陸が、私をじっと見つめていた。
あの日会った時よりも
随分落ち着いて大人びた陸がいた。
陸は私に歩み寄ると、
楓の高さに目線を合わせてしゃがんだ。
「楓か」
「おう、おじちゃん、誰?」
楓がそう言うと、陸は私の顔を見た。
そうして視線を楓に戻すと、
陸は楓の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「おじちゃんは、お母さんの
お友達だ。覚えておけよ。楓」
「おう!」
楓が嬉しそうに手を上げて返事をすると、
陸は立ち上がって私を見つめた。
「久しぶり」
「ひ、久しぶり。陸。
私のこと、覚えてるの?」
「ああ。最近調子いいんだ。
慈愛の家も出て、一人暮らししてるよ」
「そう」
陸は私の顔を覗き込むと、小さく笑った。