ライアーピース
Piece7
頭を打った衝撃か、陸はその日以来、
中学3年までの記憶が完全に戻ったみたいだった。
完全と言っても“唯”って子と一緒にいた記憶だけが、
思い出されるようになっただけだけど。
陸は毎日、唯って子の名前を
呼んでは悲しそうな顔をする。
私のことは思い出せなくて、
いつも“二宮”と苗字で呼ぶようになった。
その苗字を呼ぶ声を聴くと私が悲しくなる。
気付けば文化祭当日。
私は全然楽しくない文化祭を迎えた。
陸がいない。
いるんだけれど、
私の知ってる陸がいない。
それだけでこんなにも、
虚しくなってしまうなんて・・・。
「ニノ。何落ち込んでるの?」
「由紀乃」
執事姿の由紀乃はかっこいい。
顔立ちが整っていると男装しても完璧なのね。
「なんでもない。
それより執事由紀乃、かっこいいね」
「うそ、ニノに比べたら全然だよ~」
言わずもがな、
私は他の誰よりもこの格好が似合っている。
他校の女子からキャーキャー言われる
この感じも悪くない。
ちょっとした優越感に浸れるのは
文化祭とか球技大会とか、
そういうイベントだけ。
余計なことは忘れて
今この時間を大切にしなくちゃ。
「うし、頑張って接客しよ。由紀乃」
「うん!」
髪型と服装をチェックして、
私と由紀乃は教室の前に立った。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
私が満面の笑みを向けると、
そこには1人の女の子が立っていて、
私をじっと見つめていた。
「あの・・・入られますか?」
私がそう尋ねると、その子は口を開いた。
「陸って人、いる?」
「え・・・?」
「佐々木陸。いる?」
なんだか嫌な予感がした。