ライアーピース
授業が終わり、次の移動教室のために
準備をしていると、唯がこっちへやってきた。
「ちょっと、いい?」
「何」
「陸ってどのクラスにおるん?」
「自分で調べたら?」
「ひっどいなぁ。
教えてくれてもええんとちゃう?」
この子、やっぱり嫌いだ。
ぶりっこで、
トゲトゲしくて、
何を考えてるか分からない。
こういうタイプが、一番苦手。
「Fだけど」
「そか。ありがとな~」
「ちょっと、待って」
私は唯を引きとめた。
唯は私を見て首を傾げる。
「三浦さんはさあ―」
「唯でええよ」
「・・・唯はさ、
いつから陸と付き合ってたの?」
「いつって、中1の時や。まあ、
陸の方から告って来たんやけどね。
うちはそのうちに
好きになっていったんやで」
自慢げに話す唯を見て、
少し心が痛んだ。
“陸の方から”。
陸は本当に唯を好きだったんだ。
陸の気持ちがあるかないかで、
唯との差が広がっていく。
私は敵わない。
でも、もしかしたら
私にもできるかもしれない。
唯が好きになってもらったように、
私も頑張れば陸に選んでもらえるのかも・・・。
「そっか。唯は好きなの?今でも」
「・・・好きやで。ずっと好き。
せやからこうして追っかけてきた」
「・・・陸の病気のこと、知ってるの?」
「病気?ああ、記憶障害ね。
知ってんで。もちろんな」
「そう」
「もういいかな。
はよせぇへんと遅れんで」
唯はそう言うと教室を出て行った。
私はただ一人、
ポツンと教室で立ちつくしていた。