ライアーピース



居たたまれなくなって
咄嗟に隠れる。


二人が私に気づくことはなく、
お構いなしにキスを続けた。


優しいような、
それでいてどこか激しいような、
そんなキス。


ああ、見るんじゃなかった。


早くここから立ち去るべきだった。


それなのになぜか、
足が全く動こうとしない。


どうしちゃったの?


傷付くだけだよ。


どうして私はここにいるの?


見たくないのに、私の視線は
二人にくぎ付けになる。


「なあ、陸はどう思う?
 二宮若葉のこと」



ふいに私の名前が呼ばれて、
びくっと肩を震わせる。


まるで唯が私の存在に気づいて
わざとこの話題を出したかのよう。


陸は、うーん、と唸って、
それから口を開いた。


「親友、かな」


「親友ね・・・」


「なんで唯が気にすんの?」


「別に・・・。気になっただけや。
 なんか仲良さそうに見えたから」


「おう、ダチん中では
 最高にいいやつだよ」





“いいやつ”。



違う、違うよ。陸。


私は“いいやつ”
になりたかったわけじゃない。



“いい女”になりたかったんだよ。




「苦しいよ・・・陸」


聞こえやしないことはわかってるのに、
そう陸に向けて呟く私。


「なあ、陸。キスしようよ」


「唯・・・」


唯に求められた陸は、
そっと唯の頬に手を添える。




見たくないのに、
目を逸らせない。


やだ。やめてよ。


陸に、触らないで・・・っ。


陸の唇が唯に触れた瞬間、
涙が一筋零れ落ちた。




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