フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
UMAの姫は御曹司の騎士と出会う
1-1
「はい、これ忘れ物」
「ああ、ありがと」
カウンター越しにスマートフォンを渡すと、ケイはにこやかに微笑んでそれをギャルソンエプロンのポケットに入れた。
周りの人たちにはケイとケイの彼女とのやり取りに見えただろうか。
こちらをちらちらと見る女性客の視線を感じる。
私も微笑み返して身体を翻しケイに向かって右手を少し挙げた。『どういたしまして、じゃあ帰るね』のサイン。
ケイは軽く頷いてカウンターから出てきた。
「気を付けて帰れよ」と言いながらお店のドアを開けてくれる。
私がうなずいてケイの横を通り過ぎる時、耳元で「声をかけられても付いていかないように」と囁かれた。
付いていかないわよ
振り返ってケイを見て苦笑いをして店を出た。
まだ21時前だし電車で帰ろうかな。
この時間の繁華街は人が多くてにぎやかだ。まぁ、ほとんどアルコールが入っている人たちなんだけど。
ケイのお店から駅まで徒歩3分。
酔っぱらいに声をかけられないようにスタスタと早足で歩いていると、前を歩く男女6人のグループが目に入った。
いやだな。
そんなに広がって歩かないでよ。
追い抜きにくいじゃない。
しかも、男性からも女性からもセレブ感が漂っている。
女性は20代半ば、男性は30代前半から半ばくらいかな。
男性は皆隙の無い高そうなスーツに身を包みどの人も引き締まった体つき。
女性もスタイル抜群で上から下まで完璧な仕上がり。アルコールが入って上機嫌なのか甘えるような甲高い声が耳障りだ。
そんな人たちが行く手をふさぐように広がって前を歩いていた。
正直に言って苦手な人種だ。
心の中でため息をついて抜かそうと足を速めた。
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