フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
でも、嫁入り前の娘が男性と二人きりでいる状況で入浴するのはさすがにマズい気がする。
着替えもないし。

うーん、と悩んでいると

「お嬢さまがシャワーを浴びて食事をとった後に全てお話いたします」

元林さんがいつもの穏やかな顔で言った。

そう言われちゃうとね。

「そのドアの向こうがゲストルームの洗面所と浴室です。私は1階に降りて食事の支度を致します。
お嬢さまは私が部屋を出たらこの部屋の鍵と洗面所と浴室の鍵を全てかけて入浴してください。
着替えは・・・そのクローゼットの中に着られそうな服が何枚か入っていますのでお好きなものにお着替えください」

指差されたドアの向こうにあるのは洗面所と浴室。もう一つあるドアは部屋の出入り口ということか。


「今ここに元林さんと私以外に誰かいるの?」

「いいえ、お嬢さまと私だけですが」

そうか、だったら元林さんだけに気をつければいいのか。

「・・・わかった。とりあえずシャワーを浴びて着替えるわ」

「では、しっかりと鍵をおかけください」

私が頷くと元林さんは微笑んで部屋から出て行った。

私はドアノブの下にある鍵をガチャリと閉め、元林さんの足音が遠ざかるのを注意深く聞いてからドアから離れた。

部屋の中にはセミダブルベッドが1つと二人掛けのソファがひとつ。
寝る前に見たリビングルームと同様に高級そうだけど、生活感がない。

腰高の窓には分厚いカーテンがかかっていて、音を立てないようにそっと開けてみるけれど、残念ながらというか予想通りシャッターが閉まっていて、これを開けたら大きな音がして元林さんに気づかれてしまうだろう。

開けるべきか、開けざるべきか。

開けてここから逃げるべきなんだろうか。きっとそうなんだろうと思う。
でも、まだ元林さんから何も聞いていない。

睡眠薬を使ってまでどうして私を連れ出したのか。
どうしてここに連れてきたのか。

それに真冬にこんなだらしない姿で外に出るのもどうかと思うのだ。

ここから逃げ出したとしても、この乱れた髪と落ちたメイクでどろどろの顔によれよれの姿で助けを求めた方が誰かに何かされてしまったと邪推されてしまい後々困ることになるのではないかとも思う。

ヒトの噂は怖いから。



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