フェイク アフェア ～UMAの姫と御曹司～

「絵瑠さん。今、車を回します。気分が悪いなら送りますから帰りましょう。安堂さんも帰れるのでしたらご一緒に」

先程まで聞いていた低音の落ち着いた声に顔を上げると、如月先生とは反対側のすぐそばに井原さんがいた。

井原さんは真っ直ぐ私を見ていた。
私はその漆黒の瞳を見てすぐに頷いた。ケイも「お願いします」と頭を下げた。

「私の車がすぐに来ますから外に出ましょう」
今すぐにでも逃げたかった私はケイの手を借りてゆっくりと立ち上がった。

「先輩、先生すみません。貧血かも。ひどい立ち眩みがしちゃって。先に帰りますね」と頭を下げた。

「あ、こっちはいいから、気をつけてね」
「ゆっくり休むのよ」

朋美先輩は井原さんに私の荷物を渡した。
「絵瑠ちゃんの知り合いがいて助かりました。よろしくお願いします」

「お任せ下さい。皆さんはどうぞごゆっくり」
井原さんに爽やかな笑顔で言われ朋美先輩は顔を赤らめた。

如月先生とは視線を合わせないように頭を下げて、歩き出す。

背後では朋美先輩が井原さんに私を支えている男性は誰なのかとケイのことを聞いているようだった。
井原さんが何と答えたのかはわからないけれど、私に不利益になるような答えはしていないような気がする。
あくまでも、予想だけど。
何となく井原さんは嫌な人ではないような気がしていた。

店の前には既に高級車が横付けされていて、後部座席のドアが運転手によってさっと開けられた。

ケイは先に私を車に乗せると、井原さんに「すぐに戻りますので少しの間、絵瑠をお願いします」と私の事を頼み自分の荷物を取りに急いで店に戻って行った。

「あの…すみません。ありがとうございます」
私は隣に座る井原さんに声をかけた。

「絵瑠さん、如月さんに何を言われたんですか？」
井原さんはストレートに尋ねてきた。

私は少し息を止め大きく吐き出した。
「見ていたんですか？」
「ええ。すみません。気になったもので」

私は返答に困った。この人は多分ケイの事しか知らないだろう。
どうしよう。黙って考えているとケイが戻ってきた。

「安堂さん、絵瑠さんの隣にどうぞ。私は助手席に座りますから」
と私の隣から助手席に移動していった。