フェイク　アフェア　～UMAの姫と御曹司～
「ノエルは過去にストーカー被害被害にあって現在『桐山絵瑠』として暮らしています」
ケイは私が了解する前に話し始めた。

井原さんの瞳が大きく見開いて、私を見た。
私は小さく頷いた。

ケイは話し続ける。

「ノエルは以前は普通にANDOの社長令嬢として生活していました。いろいろあって看護師になったんですが、まあそれはこれとは別の話で。看護師になって都内ではなく地方の大学病院に勤務していた時に、患者だった若い男からストーカー被害を受けるようになってしまったんです」

淡々と話すケイの隣で私はぼんやりとしていた。

この話を思い出そうとすると思考がはっきりしなくなる。
まるで昔見たテレビドラマを思い出すように現実感がなくて自分が経験した出来事ではないように感じるのだ。

「当時、ノエルは実家の両親とは断絶状態だったので俺にも相談しにくかったと言っていました。もっと早く俺が気が付いていればノエルが傷つくことはなかったのにと後悔しています」

「傷？」

「心だけでなく身体に傷つけられました。・・・待ち伏せしていたストーカーから逃げようともみ合っていて相手の持っていた傘の先端で太ももを刺されたんです」

えっ。
井原さんが息をのんだような声が私の耳に入った。

私は頷く代わりに口角をきゅっと引き締めてゆっくりとまばたきをした。
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