フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
しかし、受付嬢といい、先ほどの秘書室の女性スタッフといい、私を見る目がかなりきつい。
修一郎さんが見ていないタイミングで視線が刺さるのを感じた。

ただのファンじゃなくて本気で修一郎さんのことが好きなんだろうな。
顔は笑顔をキープして心の中でため息をついた。


修一郎さんから頼まれたのは毎日届くメールの振り分け作業。

日本語と英語のメールはそのまま。
その他の言語はそれぞれ違うボックスに振り分けて翻訳スタッフに回すというもの。
多くはないが、ドイツ語、フランス語、イタリア語、中国語などいろいろ届くらしい。

執務室の外にある佐々木さんの隣にある私のデスクのパソコンでやるのかと思ったら違うと言う。

毎朝、修一郎さんは佐々木さんや他のスタッフと応接ソファーで打ち合わせをするからその間に修一郎さんのデスクで作業をして欲しいのだそう。

後も文書のファイリングとかほとんど執務室内でやる仕事ばかり。
まさか、執務室に軟禁?

でもまあ状況を考えたら仕方ないか。
IHARAの本社に私のストーカーが入り込むとは思えないけれど、ないとは言えないし。
会社で修一郎さんに迷惑をかけるわけにはいかない。

それにここでの私の一番の仕事は修一郎さんの女性除け。
私が専務の部屋に入ったきりだと噂がたてばしめたものだ。

「ノエル、ランチに行こう」

「はい」

2人並んでエレベーターに乗ると
「腕を組んで」と私の腕を取った。

「会社ですよ、いいんですか?」首をかしげると
「もう昼休みだし、外の店に歩いてランチに行こう。少し、周りに見せびらかしておくから」
ニヤっとした。

「わかりました」

受付嬢やエントランスにいる女子社員に婚約者との親密さのアピールをしておくのか。
これで修一郎さんは社内の女性にアタックされずに済むのだろうか。

腕を組んでエレベーターを降りて歩いていくと周囲のざわめきが耳に入る。

「ノエル、笑顔がないよ。社長室ではずいぶんと笑ってたのに」
少しすねたような修一郎さんの声がした。

修一郎さんを見上げる。

「そうでした。ごめんなさい、慣れなくて。あれ?私社長室でそんなに笑ってましたか?」

「迎えに行ったらずいぶん楽しそうにしてたよ」

「ああ、そういえば常務さんや産業医の小林先生がいらして少しお話させていただいたりしてたので、ずいぶんとリラックスしてしまったような」

修一郎さんを幼いころから知っている常務と小林先生と修一郎さんの話をしていたのは内緒だ。
自分のいないところで幼いころの失敗談を聞かされていたなんて知ったら修一郎さんの機嫌が悪くなりそうだから。

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