フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
「社長室は楽しかったんだ?」

「はい」

「そう、よかったね。でも、専務室ではあんまり笑ってなかったのにな」

「だって、専務室は仕事をするところですからね」

受付を通過するときに軽く頭を下げて総一郎さんの話に戻った。

「転びそうになって修一郎さんの膝に座ってしまうし、しかも秘書室のスタッフに見られちゃって笑える心境じゃありませんでしたよ」

「俺はあのまま仕事でもよかったのに」

「なっ!」

いつもながら冗談が過ぎる。

バカなこと言わないで下さいと軽く組んだ腕を叩いた。

そんな私たちのやり取りをする様子は多くの社員に目撃されていて、その日のうちに社内で専務と婚約者は熱愛中だという噂になっているとお義兄さんから聞くことになった。

どうやら私も修一郎さんの役に立っている。


今日は修一郎さんの会食も会議もないらしくて、午後の仕事を定時で終えて一緒に車で帰宅をした。

帰りの車で「今夜の夕飯は何が食べたいですか?」と聞いてみる。

「え?仕事してきたのにノエルが作るつもりなの?」

意外そうな顔で返事が返ってきた。

「いえ私は今日ほとんど働いてませんよ。しかも、定時帰りですし」

当然だという私の表情に修一郎さんは「ふうん」と頷いた。

「作るのがキツいときはきちんと言いますね」

「ああ、ノエルのご飯が食べられるのはうれしいけど、無理しないでいいから」

「はい」

「ノエル、オムライス作って」

「はい。いいですよ」

「手伝うよ」

修一郎さんの優しさに心がほわっと温かくなった。

マンションに着いて車から降りると、自分から修一郎さんの腕に自分の腕を絡ませた。

修一郎さんは一瞬目を見開いたけど、少し照れたように微笑んでくれた。

拒否されなくて良かった。
こうして過ごす修一郎さんとの時間は私の状況を忘れさせてくれるほどかなり心地良い。
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