フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
「どうもありがとう」

ニコッと微笑むと
「ちょっと安堂さんの雰囲気と違いますね」
と手元のジュースを見て笑われた。

私の買ったジュースはビタミン類とカフェイン、ローヤルゼリーが入った炭酸飲料。いわゆるエナジードリンク。ちょっと元気がでるやつでANDO社製ではない。

彼女の名札を見ると『松本瞳』さん。

「私は結構好きなんですよね。松本さんはこういうのたまに飲みたくなりませんか?」
と笑いかけると
「なります!あ、もちろんANDOので」
と元気な返事が戻ってきて一緒に笑った。
松本さんもとてもかわいい女性だ。

専務室に戻り、いつも通り仕事をこなす。修一郎さんにはもちろん連絡していない。


昨日と同様に社長室でお父様と午後の休憩を取った後、お手洗いに寄った。

個室に入っていると誰か他の人がドアの外にいる気配がした。
私の入っている個室のドアをガタガタと揺らしている。

何ごと?と思っていると、何とドアの上からジャージャーと水をかけられた。

冷たいっ!

見上げると上から清掃用のホースが差し込まれている。

は?
これ、中学生のイジメかなんか?

鍵を開けてドアを開けようとするけど開かない。
あのドアの外のガタガタ音はドアが開かないように針金か何かで止めた音だったらしい。

閉じ込めるだけじゃないのか。
ムッとした。
とりあえず、ホースでザーザーと水をかけるのはやめて欲しい。

便器に足をかけてジャンプしてホースの先端をつかんで力いっぱい引っ張ると、ホースの綱引きは私の勝ちだった。

そのままトイレのドアの下の隙間から外の相手の足先に向けてホースの先端を横に押しつぶして勢い良く水をかけてやった。

きゃっと小さな悲鳴が聞こえて、コツコツと逃げて行くヒールの音がする。

はい、撃退完了。
こんな嫌がらせくらいでへこたれる私じゃない。

なめんなよ。
私のことをしくしく泣きだすか弱いご令嬢だとでも思ったのだろうか。
こんな程度の嫌がらせになんて負けたりしない。

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