フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
その次は会場内で修一郎さんと少しだけ離れていた時にどこかのご令嬢と思われるきれいなお嬢さんにワインをこぼされた時。
いや、あれはわざとかけられたんだと思う。
騒ぎに気が付いた修一郎さんが戻って来て自分のジャケットを脱いで私にかけてくれる。
手を貸そうとしてくれたホテルスタッフを遮って
「いや、ノエルには俺がいるから大丈夫だ、ありがとう。他の誰にもノエルには触れて欲しくないから」
と言ったのを近くにいたどこかの会社の社長夫人が聞いていて周りに吹聴されてしまった。
「若いっていいわね。私もそんなことを言われてみたかったわ」
「あの井原修一郎さんにそう言わせるだなんてよほど愛されてるわね」
ひそひそと囁かれるわけではない。
二人でいるところで堂々と「あなた相当愛されてるわね」と言われるのだ。
それに対して私が困ったように曖昧に笑ったら
「なかなか僕の気持ちが彼女には伝わらなくて困っているんです」
そう言ってご婦人方の目の前で私の腰を引き寄せて頬にキスをされた時には硬直したまましばらく動けなかった。
遠くにご婦人方のはしゃぐ声が聞こえたけれど。
そして、今日のおでここっつん。
すっかりIHARAホテルの御曹司がANDOの令嬢を溺愛という構図が出来上がっている。
もちろん、修一郎さんの策略なんだけど。
さすがにやりすぎじゃないかと思う。
でも「この位のアピールは必要」らしいので黙って従うことにした。
一刻も早く私の生活を脅かしていたストーカーと対決しなくてはいけないし。
それにしても、それまで私の心臓がもつかな。