オトナの恋は礼儀知らず
「可愛らしかったです。」

 おでこにキスをされ、桜川さんは穏やかな顔で微笑んで見つめている。

 おじさんとおばさんで全く……。
 いいえ。おじいさんとおばあさんだわ。

 苦笑すると優しく触れた指先に気づいた。

「前よりはここにしわが刻まれることが少なくなったかな。」

「眉間のしわを見て惹かれるなんて物好きですね。」

 嫌味だと分かっていないのか桜川さんは微笑みを崩さない。

「褒められた出会いではなかったですよね。
 焦ったのだと思います。
 私には時間がない。」

「何か病気ですか?」

「健康そのものですよ。
 平均寿命の話です。
 もう50。あと20年くらいだ。」

「50歳なんですね。」

「あ、いえ。前に誕生日が来て51です。
 プレゼントはその日にいただきました。」

 いたずらっぽく言う桜川さんのプレゼントが何を指すのか脳裏に浮かんで恨めしく思った。

「時間がないという話ですが……。
 そのせいで不躾ですみませんでした。
 時間がないと思うと厚かましいくらいでないと手に入れられない。」

 女の人の方が寿命が長いとしても自分も折り返し地点。
 しかも衰えていく時間しか残っていない。

 確かに時間が足りない。
 桜川さんのことを知るのには……。

「友恵さん。結婚しましょうね。」

「………はい?」






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