オトナの恋は礼儀知らず
 結果、全てがいい方向に転んだ。

「友恵さんの恋人ってダンディなんですよね?」

 噂に尾ひれがついているのはいただけないが、福田くんとのことは無かったことになっているのは有り難かった。

「声だけでも分かりましたよ〜。
 すっごくいい声!」

 はしゃぐ亜里沙のことも大目に見よう。
 福田くんに貢いでるという噂よりは天と地ほどにマシだから。



 朝、出勤すると珍しく福田くんが先に来ていた。

「おはようございます。
 本当に昨日はすみませんでした。」

「もういいのよ。
 私こそ変な電話でごめんなさいね。」

 福田くんにまでいい歳したおばさんが恋愛にうつつを抜かしてとか言われたらショックだわ。
 何歳でも自由よね?

「俺の方こそ、紗南に適当なこと言って。
 友恵さんを好きって言えば何も言わないと思ったんですけど。
 友恵さんなら迷惑かけないかと思っただけです。」

 念押ししなくても分かってるわよ。
 そして相変わらず失礼だからね!


「デート中にすみませんでした。」

 それだけ言うと外に出て行った。

 今日の外掃除は福田くんがやってくれるのね。
 珍しいこともあるもんだわ。

「あーぁ。
 福田くんも意地っ張りなんだから。
 俺の方が友恵さんのこと想ってます!
 くらい言えばいいのに。」

 楽しそうな声が聞こえて出勤してきた亜里沙が笑っている。

「だから、なんでもかんでもそっちにとらえないの。」

「はーい。
 友恵さんこそ昨日の恋人は前に同じ服のまま来た時の人ですか?
 今度こそ色々教えてくださいよー?」

「そうね。そのうちね。」

 話せる時が来るかしら。
 あれからろくに約束もしていないのに。





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