オトナの恋は礼儀知らず
 娘との電話が終わった父は父親の顔にはなっていなかった。

 ぼんやりしていた友恵を覗き込む顔は欲情を隠しきれていない色気漂う眼差しだった。

 友恵にしてみたら不可抗で避けようがなかった。と主張したい。

 ぼんやりした意識を取り戻した時には既におでこに……というよりも目と目の間の辺りにキスをされていた。

 どうしてそんなことを……と思いつつも、この程度で動揺するとは思われたくなかった。


 慌てふためく心を表面化させずに平静を装うことには慣れていた。
 長年オンナをやっているのだ。
 なめてもらっては困る。

 図書館での仏の鉄仮面よろしくの顔をしてみせた。

 それなのに何が楽しいのか全く分からない友恵に反して桜川さんは楽しそうだ。

 些かムッとする。
 思えば最初から少々失礼ではないだろうか。

「図書館で気になっていたんです。」

 え………。

 もしかして何度か仕事帰りにも寄ったことがある私のことをずっと見てくれていたというのか。

 だとしても不倫を正当化させてはいけない。

 憧れてくれていたとしても許されないことだと心にしかと決めても全くの無駄骨だった。

「お綺麗なのに眉間のしわが気になりまして。」

 あぁ。当人は仏の鉄仮面だと信じて疑わなかったものは人様には般若の面だったのだ。
 それでもあの地獄絵を鬼も蹴らずに歩いたことを褒めて欲しいくらいで………。



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