紅い月が離れるとき



あたしは,急いで
病院に向かった。


ずっと,
ケータイを握り締めて
タクシーのなかでいろんな
ことを考えた。



暁が死ぬってこと。



白血病だって分かった
ときから,いつか――
いつか暁は死んでしまうって。


なのに,実際に
こうなると,実感もないし
あんまり怖くなかった。


いままでだって,
なんども発作を起こしたし
それでも無事だったわけで…


暁は大丈夫だって
無意識のうちに
思ってたみたい。


病院に着くと
すぐに病室に向かった。


病室っていっても
おっきな1人部屋。


暁は酸素マスクをして,
辛そうに息をしていた。


「あっ…暁!」


部屋には,平口さんと
医者の2人がいた。


「あ,柚苗ちゃん」


「…平口さん…」


それでもやっぱり,
辛そうな暁を見ちゃうと
手は汗ばんで,
声は震えて頭は回らなく
なる……。


「ゴメンね,急に呼び出して。
大丈夫よ,でもね…」


「……でも?」


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