紅い月が離れるとき
すぐに医者は来た。
やっぱり,脈を計ったり
いろんな処置をした。
「………」
医者は小さく
肩を落とした。
「センセ…?」
平口さんがたずねる。
「………」
医者は,無言のまま,
首を振った。
…もう助からないと
いう意味。
「嘘でしょっ!?
医者でしょ,アンタ!
暁を助けてよっ!」
頼れるのは,
医者だけなのに…。
ホントに暁……死んじゃうの?
「………な…」
暁が,枯れそうな
声を出した。
「暁っ!?」
「…ずな…」
どうやら,あたしの
名前を呼んでるみたい
だった。
「なに,どうしたの?
あたしはココにいるよっ?」
「……と,…のし…った」
「へ? なに?」
暁は,必死に口を
動かしてなにか
言おうとしていた。
「あり……と」
「あり…がと…?」
「た…しかっ…た」
「楽しかった…?」
あたしが理解してすぐ,
暁はいままでで1番
ひどい発作を起こした。
「いや! ありがとじゃ
ないよっ!
これからだって,もっと
話して…楽しんで…
病気なんか吹っ飛ばしてさ
遊ぼうよっ!?
久し振りに外に出ようよっ!!」
もう,自分で自分を
抑えることが出来なくなって
いた。
「やめて……」
部屋中に,
"ピー"という甲高い
音が鳴り響いた。
「…18時41分,
暁 直也――御臨終です」