恋愛ノスタルジー
それに……聞けないもの、私を抱き締めてキスした理由なんて。

きっと魔が差したからに決まってる。

でもそれを圭吾さんの口から直接聞くのは嫌だった。

「なんで嫌なのよ」

「だって、そんなの……花怜さんが可哀想だし」

「……それだけ?」

「え?」

素早く切り返されて私が口ごもると、美月はスマホの向こうで小さく息をついた。

「あんたが男を見る目のない恋愛音痴なのはよく知ってるけどさ、自分の気持ちにまで鈍感になるのはよしなさいよ?」

自分の気持ちに鈍感になる……?

思わずかぶりを振り、私は少し眉を寄せた。

美月がどうしてそんな事を言うのか分からない。

「それは大丈夫だよ。自分の事だもの、自分が一番分かってる」

「そ?」

「うん」

胸がゾワゾワしたけれど、この時の私はそれが何を意味しているのかまるで分かっていなかった。


****

『週末、泊まり込みで画のアシスタントをすることになりました。帰宅するのは日曜日の夜になります』

圭吾さんにラインを送ると、私は小さく息をついてリビングの時計を見上げた。

午後十時。

凌央さんの家から帰り、シャワーのあと夕食を食べて待っているけれど、圭吾さんが帰宅する気配はまるでない。

……今日も深夜なんだろうか。
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