恋愛ノスタルジー
「あ、あの圭吾さんは、」

「たった今眼を覚まされまして、先生に診察していただいたところです」

少しホッとするも、まだ心臓が激しく脈打っていて、私は黒須さんに尋ねた。

「会えますか?顔が見たいです」

「少しなら問題ないそうです。どうやら酷い過労のようです。お電話でも申しましたが、明日、精密検査をうける予定です」

「……そうですか……」

「では私は一旦社に戻らないとなりませんのでこれで失礼します」

「お世話になりました」

黒須さんの背中を見送り、そっと病室のドアをノックすると私はゆっくりとそれを開けた。

広々とした個室は濃いブラウンを基調としていて、病室という雰囲気を出来るだけ感じさせないように配慮されたデザインだった。

「……圭吾さん」

ベッドに横になったままこちらを見ていた圭吾さんと眼が合う。

私を見た圭吾さんは驚いたように眼を見開き、私もまたドキンとした。

「……アシスタントはどうした?」

普段よりも酷く掠れた声に、胸が痛む。

「俺の事はいいから早く戻れ」

……嫌だ。

「……早く行け。もうお前の邪魔をしたくない」

「戻りません。圭吾さんのそばにいます」

……ダメ。圭吾さんに負担をかけないように、明るく。

私は胸に手を当てたまま、ゆっくり圭吾さんに歩み寄ると一生懸命笑った。
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