恋愛ノスタルジー
「精算方法としては後日指定口座に振り込む。それからもう既にタクシーは手配済みだ」

……帰る気満々だ。

せめてもう一日、身体を休めればいいのに……。

それとも、今日は外せない予定があるとか……?

そう考えた瞬間、心臓がドキッとした。

……もしかして、花怜さん……?花怜さんと会うとか?

圭吾さんがパソコンバッグを持ち上げて私を見た。

「家に帰るぞ。早く来い」

「え、でも……そ、の……」

本当に、本当になす術がなかった。


*****

「……あの……何か食べますか?」

家についてシャワーを浴び終えた圭吾さんに、私はオズオズとこう切り出した。

圭吾さんは上下ともブラックのスウェットに身を包み、冷蔵庫から炭酸水を取り出した後私を振り返った。

「……彩となら……食べる」

あの広い病室で、一人きりの食事はきっと味気無かっただろうな。

「お昼すぎちゃいましたね。私急いで作ります。パスタなんてどうですか?」

私がそう言うと圭吾さんは軽く頷き、続けて口を開いた。

「……それから……少し付き合ってもらいたい所があるんだ」

……付き合ってもらいたい所?私に?

「いいですけど、じゃあそれまではゆっくり休んでくださいね」

「分かった」

圭吾さんが眠っている間に凌央さんのところへ行って荷物を取ってこよう。

確か今日の凌央さんのスケジュールは、出勤しないで個展の作品を進める予定だったもの。

それに、LINEを入れただけで直接謝っていないし。

私は昼食を食べた後、眠っている圭吾さんを起こさないように寝室の前の廊下を静かに進むと玄関ドアを開けた。
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