恋愛ノスタルジー
それから、思い出してももう辛くはなかった。

何かから解き放たれたように爽やかな気持ちでふたりを見ることが出来て、ホッとする自分がいる。

私は……どうやって凌央さんを通りすぎたんだろう。

そう思った時、凌央さんに見せられたあの赤の画を思い出した。

様々な感情を赤だけで表現した凌央さんのあの画。

あの画の赤の中に、私が凌央さんに抱いた赤色もあったのだろうか。

またいつかあの画を見たら、彼に対する赤色がどれか分かるかな。

「彩、荷物を下まで運んでやる」

私は素直に頷いた。

「凌央さん、ありがとうございます」

「じゃあ、私も今日は帰るわ」

「おう。世話かけたな、優」


****

三人でエレベーターにのり、エントランスを出た時、一番先を歩いていた凌央さんが立ち止まった。

「彩、迎えが来てるぞ」

「え?」

見知った姿に私の胸がトクンと跳ねる。

アプローチの先の道路。

点滅するハザードランプと、その車に寄りかかるようにして立っているスラリとした男性。

いつもスーツで身を固めているけど、今日は皮のジャケットからVネックのインナーがチラリとのぞく、ラフでありながらもシャープさを忘れない服装だった。

そんな圭吾さんの姿にキュッと胸が鳴る。

思わず胸に手をやった私を見て、凌央さんがバッグを私の肩にかけた。

「あんな顔してこっち見てたら、嫌でもお前を迎えに来たって分かる」

含み笑いをした凌央さんに、私は少し笑った。

凌央さんは勘違いしてる。でも、それでいい。

立花さんが圭吾さんに深々と頭を下げた後、私を見て笑った。
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