恋愛ノスタルジー
「……」

運転するその横顔が、何故かやたらとぎこちない。

……そんな顔をされると、凄く不安なんだけど……。

圭吾さん、と声をかけようとした時、まだ発進して間なしだというのに彼はハザードランプを点滅させて車を路肩に停車した。

「行きたい店があるんだ」

「お付き合いします。どこのお店ですか?」

「アルテミス」

アルテミス……。

心臓に何か尖ったものが突き刺さったような感覚に思わず肩がビクンと跳ねた。

アルテミス……そうだ。

以前圭吾さんにクリスマスの予定を聞かれた時にアルテミスの話をした。

花怜さんへのクリスマスプレゼントをまだ決めてないなら、代官山の《アルテミス》っていうジュエリーショップに可愛いのが沢山ありますよって……話した。

「アルテミスに行きたいんだが……付き合ってくれるか?」

「はい、もちろん」

……私は今、ちゃんと笑えているのだろうか。

圭吾さんが花怜さんにプレゼントするジュエリーを、ちゃんと選べるだろうか。

何かあるといつも急上昇する心臓の鼓動は何故か今、思いの外静かだ。

その代わり、軋む。

ギシギシと。

馴れなければ。馴れなければ、この痛みに。

私は呪文のようにそれを心の中で繰り返した。
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