恋愛ノスタルジー
負の感情を紛らしたくてジョッキを掴みグイッと飲み干すと、私は息を吐き出した。

**

ほんの二、三分で美月は戻ってきた。

それから私にスマホを手渡すと、

「じゃあ私は消えるから後は圭吾さんとちゃんと話しなさいね。あ、マナちゃん、彩にハイボール持ってきて」

「はあい!」

今年女子大生になったバイトのマナちゃんは人懐っこい笑顔で美月に返事を返すと、直ぐにハイボールを持ってきて私の目の前に置いた。

それを確認した美月が不敵な笑みを浮かべる。

「これをアンタが飲みきる頃、ここにアホなイケメン社長がやって来るから、キチンと話をしなさい。いいわね!」

「そんなの怖くてできないよ、だって、」

美月がテーブルに音をたてて手を付いた。

「ねえ、彩。いつまで気付かないフリをするの?アンタの悪いところは相手のことばかり優先して自分を粗末にするところよ。峯岸の娘だからってだけで自分と結婚しなくちゃならない圭吾さんに申し訳ないとか思ってたんでしょ?だから圭吾さんを縛りたくないとか凌央さんに内緒とか、誰にも迷惑かけない方法ばっか模索したんでしょ?もっと言うなら」

美月は一旦ここで言葉を切ると、私を見据えた。

それから小さく息をつくと私に顔を寄せて諭すように続けた。

「彩の凌央さんに対する気持ちは恋に似た強烈な憧れよ。似てるけど……たぶん恋じゃない」

「っ……!」

全身を貫いて、美月の言葉が身体中に響いた。

瞬間的に凌央さんの赤の画が脳裏に蘇る。

じゃあ……じゃあ、私は凌央さんに対する感情を勘違いしていたの?
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