恋愛ノスタルジー
「うん」

「このお人形の名前はね、花怜っていうの。花怜のボーイフレンドはショーン」

どうやらその人形達のコンセプトには恋人同士という設定が盛り込まれているらしい。

「……」

俺の目の前の女の子は、手入れされている広い庭をうんざりした様子で眺めた。

「こんなお花や、広いお家なんて意味ない」

「え?」

「だってパパは一度だってお庭のお花を眺めたことなんてないもの。それに夜遅く帰ってくるとすぐお部屋に入ってそのまま出てこないんだって。ママはいつも寂しそうにしてる」

「……そう」 

女の子は続けた。

「私、パパみたいにずっと忙しい人とは結婚しないわ。だって寂しいもの」

そう言うと女の子は、再び花怜という人形を見つめた。

「花怜のボーイフレンドのショーンはね、花怜をすごく大切にしてるの。出来るだけ二人はいつも一緒に過ごすの」

その時だった。

「圭吾。ちょっとこっちに来なさい」
 
庭に面したテラスから、父が俺を呼んだ。

よく見るとたくさんの大人が食べ物や飲み物を楽しみながら談笑している。

「こっちに来てもう一度挨拶をしなさい」

「はい、お父さん」

父に返事をして女の子に向き直ると、彼女はテラスを凝視した後、俺に向かって口を開いた。

「ひとつだけ教えてあげる」

「なに?」

俺が少し声を落とすと、女の子もヒソヒソと話した。
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