恋愛ノスタルジー
「あそこいる大人みたいになると、将来あなたのお嫁さんになる人が可哀想よ。気を付けた方がいいわ。女心を理解しない男なんて最悪。離婚になっちゃうんだから」

「……分かった。気を付けるよ」

幼く可愛い声と、大人びた台詞がアンバランスで笑いそうになる。

「じゃあね、圭吾くん。元気でね」

「うん。君も」

「彩よ。私の名前は彩」

「彩、またね」

クルリと背中を向けて庭を駆け出した彩を見送りながら俺は思った。

この先大人になった彼女が、いい旦那さんに巡り会えればいいと。

**

二十年ぶりに会う彩は、もう勝ち気で少し背伸びをした女の子ではなかった。

和装用に結われた髪色は上品な栗色で、クッキリとした二重の眼や綺麗な輪郭はなかなか魅力的だった。

見合いのほんの数時間ではお互いを深く知ることなど出来はしない。

けれど俺はまた会いたいと思ったし、この見合いを承諾した時点で既に結婚は決定していた。

だから、

「……あなたに一目惚れしました。僕と結婚してください」

この言葉は嘘じゃない。

見た目も好みだし、純粋さも垣間見れた。

俺の周りにいる打算まみれで外見ばかりに気を使う女達とは違う彩が眩しかった。

金持ちの娘にありがちなワガママ気質でもなさそうで、ごく普通……いや、どちらかといえば地味な性格かもしれない。
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