恋愛ノスタルジー
あなたに融けていく
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ソファを背にしてラグに座っている圭吾さんが、話し終えてホッと息をついた。

その間中、私は食い入るように彼を見つめていた。

圭吾さんがそんな風に考えていたなんて想像もつかなかった。

忙しそうな大人達を見て当時五歳の私が言った言葉を、大切に覚えていてくれたなんて。

激務に追われて私を構えない自分を責め、寂しい思いをさせたくなくてわざと私を突き放した事も。

けれど私を手放したくなかった事。

嫉妬に狂い、私を抱き締めた事。

今、私の胸は熱く、キュッと音を立てている。

「出会っていたなんて……ごめんなさい、私覚えてなくて」

圭吾さんが首を横に振った。

「峯岸の本家は客の出入りが激しい。それに彩はまだ五歳だったから」

「……」

圭吾さんの涼やかな眼が私を正面から捉えていて、その優しい眼差しに涙が出そうになる。

ゆるゆると心が満ちてきて、ああ、このままこの人の不器用さも丸ごと包み込みたいと思った。

「……困った人ですね、圭吾さんは」

ここまで言っただけなのに、もうツンと鼻が痛くなる。

「そんな事しなくても言ってくれれば良かったのに……」

すると圭吾さんは寂しそうに笑った。

「普通の恋人同士なら俺もこんな風にはしなかった。けど俺たちは親同士が決めた結婚相手だし……日が浅すぎた。だから何を言ってもその言葉は薄っぺらで力を持たない気がしたんだ。それなら最初から中途半端に優しくしない方がいいと思った」
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