恋愛ノスタルジー
冷たい婚約者
***


圭吾さんとの新居に設けられた自室のベッドの上で、私は昼間の出来事を考え続けた。

あの後、榊さんに駅まで送ってもらって別れ際に連絡先を交換した。

「風邪ひいたら連絡してこいよ?お詫びに一つ頼み事を聞いてやるから」

私を覗き込んだ瞳が真っ直ぐで、彼の優しい人柄が見れて嬉しくて。

頭を拭いてくれた時の感覚や、路地を通った時、少しだけ触れた腕の温度。

背が高くてガッシリとした体格は男っぽくて。

……抱き締められたらどんな感じかな。

そんな事を考えてしまった自分が恥ずかしくて、思わず枕に顔を埋めた。

ああ、やっぱり好きになったんだ、私。

だって、彼の事ばかり考えていたいと思うんだもの。

……どんな声だっけ。声がちゃんと思い出せないな。

聞きたいなぁ。

その時だった。

ドアの直ぐ向こうの廊下で足音がした。

……圭吾さんが帰ってきたんだ。

お帰りとおやすみを言わなきゃ。

起き上がってソッとドアを開けると、リビングの方向に圭吾さんの背中が見えた。

どうやら電話中みたいだ。

「ああ、わかってる。僕の心は君のものだ」

少しドキッとした。

いつになく優しい口調で彼は続ける。

「愛してるよ、花怜」

……カレン?
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