恋愛ノスタルジー
ああ、この人はなんて優しい顔をして、なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう。

降り注ぐように、絶対的な愛を私だけに与えてくれる特別な人。

ハンカチはバッグの中だ。

だから私は、みるみる溢れる涙になす術がない。

「泣くなよ」

「だって……嬉しくて。忙しいのに……いいんですか?」

圭吾さんが慌ててスーツのポケットを探りハンカチで涙を拭いてくれたけど、こんなこと言われると誰でも泣いちゃうに決まっている。

「言っただろ?彩を可哀想な妻にはしないって。仕事は大事だが、彩を寂しがらせないと誓ったんだ」

「……大好き、圭吾さん」

「正月もろくにゆっくり出来なかったから新婚旅行は長めに行こう。彩が行きたいところへ」

「はい。圭吾さん」

微笑みながら目一杯背伸びをすると、今度は私から圭吾さんにキスをした。

*****

数時間後。

閉館後の秋吉アートギャラリーで、私は凌央さんと向かい合っていた。

オープニングセレモニーの華やかさが夢の中だったように思える。

ワンダウンされた照明の中に浮かぶ凌央さんの作品は、今日をなし終えてまるで眠っているかのようだ。

「初日から大盛況でしたね」

私が凌央さんを見上げて微笑むと、軽く頷いて彼も笑った。

「彩。この三ヶ月間、お前のお陰で随分助かった。それに楽しかった」

たちまち、あの広い公園で初めて凌央さんに出会った時の事を思い出した。
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