恋愛ノスタルジー
アキさんの報酬額だけを差し引いた全ての売上金を。

私が画をもらってしまうと、その分の売上金が減ってしまう。

「個展のものじゃなく、お前のためにこれから描くんだ。これは俺の気持ちだから気にするなよ?三ヶ月間アシスタントとして頑張ってくれた礼をしないと俺の気がすまない」

凌央さん……。

「……ありがとうございます、凌央さん。私、凌央さんから画を頂けるなんて本当に幸せです」

私の言葉に、凌央さんが困ったように笑った。

「大袈裟だな、お前は」

「だって本心です」

凌央さんが少し姿勢を正すと静かな声で言った。

「本当に来ないのか?お前のサヨナラ会も兼ねてたのに。尊もがっかりするぞ」

そう。今晩は個展初日の成功を祝って尊さんのお店で食事会らしい。

でも私はそれを断った。

だってそんなの楽しくて別れが切なくて、きっと泣いてしまうもの。

画は全部完成して個展も無事に初日を迎えられた。

後はアキさんの仕事だ。

だから私はもうこのへんで。

「圭吾さんとデートなんです。それに……いつでも会えますよ。個展の度にここにお手伝いしに来ますからね」

「そりゃ心強いな。じゃあ……夢川さんに宜しく言っておいてくれ」

「はい」

「元気でな」

「凌央さんも。どうぞお元気で」

「画が描けたら連絡する」

「楽しみにしています」

頭をクシャリと撫でたこの大きな手を、私は絶対忘れない。

凌央さんに手を振ると、この三ヶ月を懐かしみながら私は秋吉アートギャラリーをあとにした。
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