恋愛ノスタルジー
Ryo.Sakaki
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都内某所。
秋も深まるある夕刻、私が彼の画に出逢ったのは、本当に偶然だった。
「親友の画なんですよ」
フラリと立ち寄った閉館間際のアートギャラリーで、耳に男性の声が届く。
たったひとりの客に優しく微笑んだ青年は、画廊の主人にしては年若い。
「……素敵な画ばかりですね」
素敵な画だとはわかるけど……実は私、画に詳しくない。
月並みな言葉しか返せない私に、彼は少し頭を下げた。
「ありがとうございます」
声に混ざって床をする足音に思わず視線が下がる。
そんな私の眼差しに彼は笑った。
「脚を悪くしまして」
「……」
不躾な眼差しを送ってしまったのではないかと後悔しつつ、何と返事をしたらよいものか思案しているうちに、彼は私の脇に並んだ。
「どんな画をお探しです?」
探していたわけではなかった。
ただ本当に理由もなく立ち寄っただけに、正直にそれを告げる勇気はない。
「……どれも売約済みみたいですね」
けれど青年は申し訳ないと言ったように眉を寄せると、画廊をグルリと見回した。
「すみません。この画家の展示終了日は五日後なのですが、初日に完売してしまって」
これほどまでに素晴らしい画だ。不思議じゃない。
それに……私は画に詳しくないから知らないだけで、有名な画家なのかも。