恋愛ノスタルジー
レバーハンドルを下げてドアの外に出た後は、エレベーターホールまで素早く移動して乗ってしまえば脱出成功だ。

その時、

「どこに行くんだ」

「うわっ」

サッと開いたドアの向こうに圭吾さんが立っていて、至近距離から鋭く私に問いかけた。

予想だにしていなかった状況に言葉が浮かばない。

「……あ、の……えっと」

「……」

整った顔が、まるで彫刻のように無表情だ。

どうやら私が答えを返すまで、そこから動く気はないらしい。

ああ、もう。

仕方なく、私は空中にさ迷わせていた視線を圭吾さんに向けて口を開いた。

「えーっと、なんだかお取り込み中みたいだったから帰ろうかなーなんて思ったりして……」

「……」

圭吾さんは唇を引き結んだまま私を見下ろしている。

うっ……まさかの無視。

「……あのー……」

「今日は遅くなる」

「はあ」

言うなり圭吾さんは踵を返し、社長室へ戻ってしまった。

……ほら、お互いに嫌な思いをしただけじゃないの。

私は心の中で黒須さんに文句を言いながらエレベーターホールを目指した。
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