恋愛ノスタルジー
***
「凄い……!」
私は硝子棒を定規の窪みに滑らせ、巧みに筆を動かして意のままに直線や曲線を描く凌央さんの指先を感嘆の思いで見つめた。
「こうやって硝子棒を滑らせながら筆を動かすと、直線も曲線も思うように描けるんだ」
筆と硝子棒をお箸のように持ち、その幅を広くしたり狭くしたりしながら、彼はケント紙の上に美しい線を生み出していった。
それに……。
「……なんて素敵な画なの……」
広いテーブルの上にある鮮やかな画に、私は息を飲んで見入った。
後で聞いた話によると、それは《全紙》と呼ばれているサイズの画だった。
数多くの鮮やかな色を使い、寄せては遠ざかる波と直線的な大地を思わせる模様。
その抽象的な背景に彩られ、太陽神アポロンが唇を引き結び雄々しく瞳を光らせている。
私の掠れた呟きに、凌央さんがフッと顔をあげた。
「これはイタリア料理店の開店祝いに贈る画なんだ。入り口に飾りたいんだと」
「凄く素敵です!きっとお客様は料理の美味しさだけじゃなく、この画からも幸せを感じるでしょうね!」
絶対にそうだ。だって凄く素晴らしい画だもの。
言いながら凌央さんを見ると、彼は少し驚いた顔をして私を見上げていた。
それから我に返ったのか、定規や筆をサイドテーブルに戻してクスリと笑う。
「誉めてくれた礼として、晩飯おごってやるよ。飲みに行こうぜ」
言いながら立ち上がった凌央さんに、私は慌てて首を振った。
「凄い……!」
私は硝子棒を定規の窪みに滑らせ、巧みに筆を動かして意のままに直線や曲線を描く凌央さんの指先を感嘆の思いで見つめた。
「こうやって硝子棒を滑らせながら筆を動かすと、直線も曲線も思うように描けるんだ」
筆と硝子棒をお箸のように持ち、その幅を広くしたり狭くしたりしながら、彼はケント紙の上に美しい線を生み出していった。
それに……。
「……なんて素敵な画なの……」
広いテーブルの上にある鮮やかな画に、私は息を飲んで見入った。
後で聞いた話によると、それは《全紙》と呼ばれているサイズの画だった。
数多くの鮮やかな色を使い、寄せては遠ざかる波と直線的な大地を思わせる模様。
その抽象的な背景に彩られ、太陽神アポロンが唇を引き結び雄々しく瞳を光らせている。
私の掠れた呟きに、凌央さんがフッと顔をあげた。
「これはイタリア料理店の開店祝いに贈る画なんだ。入り口に飾りたいんだと」
「凄く素敵です!きっとお客様は料理の美味しさだけじゃなく、この画からも幸せを感じるでしょうね!」
絶対にそうだ。だって凄く素晴らしい画だもの。
言いながら凌央さんを見ると、彼は少し驚いた顔をして私を見上げていた。
それから我に返ったのか、定規や筆をサイドテーブルに戻してクスリと笑う。
「誉めてくれた礼として、晩飯おごってやるよ。飲みに行こうぜ」
言いながら立ち上がった凌央さんに、私は慌てて首を振った。