恋愛ノスタルジー
「印象派のような画をかいたり抽象派のようなものを描いたり……風変わりなヤツなんです。画風に一貫性がなくて」

……風変わり……。

小学生の時に読んだ本の主人公……たしか名前は彦一だったと思うけど……風変わりという表現を聞いたのはあの本が初めてで、その言葉を聞く度、いつも挿し絵の彦一の顔が脳裏に蘇る。

そう思うと次には本の挿し絵の彦一と、顔も知らないこの壮大な油絵の描き手の顔が重なり、私はクスリと声をあげて笑った。

「……どうしました?」

そんな私を、彼は真横から少しだけ覗き込む。

「いえ。私の想像通りの人なら面白いなと思って」

「是非確かめてみてください。その辺をよくウロウロしていますよ」

「そうですか。じゃあいつかお会いできるかも知れないですね」

是非会ってみたい。

この画家は一体どんな姿をしていてどんな声でどんな思考の持ち主なのか。

私は彼に会釈をするとギャラリーの中をもうひと周りした。

無機質なギャラリーにRyo.Sakakiの画が、様々な声を上げているような錯覚を感じる。

Ryo.Sakaki……Ryo.Sakaki

このときの私は、本当に彼と逢えるとも、その出会いによって自分の運命が激動する事にも、まるで気付いていなかった。
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