恋愛ノスタルジー
それから圭吾さんに激突する勢いで身体が前につんのめる。

うわ、怒られる……!

ところが、

「何やってるんだ」

「……あ」

フワリとギルティオムが香った。

それから私を抱き止める圭吾さんの逞しい身体。

おまけに至近距離から私を見下ろす涼しげな眼。

こ、これは……その、どうしよう。

圭吾さんの胸に密着した頬を起こすには、まず、えーっと……。

酔った頭で一生懸命考えるも、どうしたって背中に回っている圭吾さんの両腕を、どうにかしなきゃ無理で……。

なのに圭吾さんはムッとして私を見下ろすだけでその腕を解こうとしない。

通った鼻筋と形の良い唇がすぐ斜め上にあって、その近さに私は息を飲むしかなかった。

「……」

「……」

ち、沈黙が……怖い……。

その時、救いの手を差し伸べるかのように私のスマホが鳴り始めた。

程なくして私の身体に回っていた圭吾さんの腕が解かれる。

慌ててバッグから取り出したスマホの画面に思わず胸がキュッとした。

……凌央さんからだ。

「彩ー?ちゃんと家に着いたか?!送るって言ったのに拒否りやがって。アキが心配してるぞ」

「あ、はい。今着きました。ありがとうございました。凄く楽しかったです!お料理、美味しかったですね!尊さんとアキさんにもお礼言っておいてください」
< 52 / 171 >

この作品をシェア

pagetop