恋愛ノスタルジー
「そう言えば予期せぬ事が起こったの」

「予期せぬ事?どんな事よ」

「それがね」

私はジョッキを傾けたあと小さく咳払いをして身を乗り出した。

***

「そう来なくちゃね……」

話終えた私の真正面で、美月がニヤニヤと笑う。

「なによその笑いは」

「何でしょう……」

なんだか不気味だ。

「なんか思ってるならちゃんと教えて」

「さあー……なんでしょう……あ、ヨシ君、ビールお代わり!」

「はい、美月さん」

店員のヨシ君がニッコリ頷き奥へ消えていく。

モヤッとするなあ……!

口を尖らせた私をチラ見した後美月は瞳を伏せたけど、その顔は相変わらず締まりがない。

ああ。今頃なにやってるんだろう、凌央さん。

私は意味不明な美月を諦めて、凌央さんの顔を思い浮かべた。

ああ、凌央さんはとにかく見た目も中身もカッコいいのよね……。

そう。頭の先から爪先まで全て素敵。

「わ、なに!」

急に私の想像をかき消すかのように美月がゴトリと音を立ててジョッキを置いた。

運ばれてきたばかりの新しいビールが早くも半分減っている。

「これだけはしっかりと覚えておきなさいよ、彩」

「え?」

「イケメン画家に本気になればなるほど、辛くなるってこと」

美月の顔からはさっきまでのニヤニヤが消え失せていて、代わりに僅かに眉が寄っている。

「……うん」

返事をしたものの、私に実感はなかった。
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