恋愛ノスタルジー
「多少インクを弾いたとしても表面のコーティングを消ゴムで落としゃいけるだろーが」

ムッとして横を向いた凌央さんに立花優さんが話しながら近づく。

「何の為のセット販売?プロじゃあるまいし未経験者が紙にこだわりがあるとでも?素人にも手軽にイラストにチャレンジしてもらう為のセット販売でしょ?」

「……」

カツンとヒールが鳴り終えた頃、立花優さんは至近距離から凌央さんを見上げて勝ち誇ったような笑みを見せた。

「とにかくご検討を。私はこれで失礼します。新作のポスターカラー、ここにおいておきますね」

「……ああ。彩、ちょっと下まで送ってくるわ」

「あ、は、はい」

急に名前を呼ばれて、私は弾かれたように返事をした。

新作のポスターカラー……。

ん?

立花優さんが置いて帰ったポスターカラーの隣に、赤い手帳が置き去りになっている。

もしかして、彼女の忘れ物なんじゃ……。

私はそれを手に取ると確認のために玄関へと急いだ。

「あ、あの……」

行くんじゃなかったって、心の底から後悔した。

だって二人が、キスしてたから。
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