恋愛ノスタルジー
……そうだ。そう言えば圭吾さんに私は一体どんな失礼を働いてしまったのか。

お箸を持ったまま硬直した私をチラリと見た後、圭吾さんは自分のグラスにビールをついで一口飲んだ。

それから、

「今更隠さなくていい。好きな男がいるのは知ってるし昨夜のあの乱れようは尋常じゃなかった」

じ、尋常じゃない乱れ方!?

「あの、そう言えば……私なにか言ってました?」

「覚えてないのか?」

「はい……」

「……」

圭吾さんは私をしばらく見つめていたけれどやがて諦めたように鍋を食べはじめた。

よく考えたら圭吾さんに迷惑をかけたのは確かだし、何も言わないのはダメよね。

私は器を置くと、意を決して口を開いた。

「……好きな人が……他の女性とキスしてるのを見ちゃったんです。それで、悲しくて……」

私のその声に、圭吾さんはお箸を止めた。

「もう一度詳しく話せ」

「……はい」


****

凌央さんに出会ってから今までの経緯を、私は包み隠さず圭吾さんに話した。

昨日の今日だからお酒は断ったのに、少し飲んだ方が話しやすいだろうと言われ、素直に納得してビールを飲んだ。

「でね、彼の画って凄いの。なんだか知らず知らずのうちに吸い込まれる感じがして。それだけじゃないの。風が木々を揺らしている様子を見ているだけで、私もその風を感じられるというか……水の透明さや空気の美しさも全て感じるの」

ビールのせいか、身体が熱い。
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