恋愛ノスタルジー
「……彩の好きなものでいい」

いつもより少しぐぐもった圭吾さんの声。

「……え?」

その返事があまりにも意外で思わず聞き返すと、決まり悪そうに圭吾さんは咳払いをした。

「昨夜は僕が決めたから今日は彩の食べたいものを一緒に作る」

手の甲で唇を拭うようにしてそう話す圭吾さんに、私は戸惑いを隠せない。

「……そんなの……いいんですか?」

「うん」

じゃあ……あの店はどうだろうか。

私は大好きな店の、あのワクワクするような料理の数々を思い浮かべながら圭吾さんに言った。

「圭吾さん、今夜はデリカテッセンにしましょう!圭吾さんのマンションの近くにお洒落で美味しいテイクアウト専門店があるんです」

それならお互いに好きなものを選べるし、シェアできる。

「そこのお店はベーカリーも大人気なんですよ。一度圭吾さんにも食べてもらいたかったし」

私がそう言って笑いかけると、赤信号で車を停止させた圭吾さんが私を見た。

「分かった。じゃあそこにしよう」


****

「彩。そっちはワインだから重い。僕が持つ」

「あ……でも圭吾さんのがいっぱい持ってるし」

「大丈夫」

「じゃあ……お願いします」
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