恋愛ノスタルジー
分からない。でも、でも、もしかして……。

暫くの間、私はそれを見つめて立ち尽くしていたけど、やがて何となくその意味が分かった気がした。

「どう思う?」

低い声で凌央さんは私に問いかけた。

「……」

燃えて焦げるような、それでいて嬉しいような切ないよいな、何とも言えない感情に身悶えしそうになる。

考えがまとまらない。なのに、なにかを強く感じて震えそうになる。

「彩、」

意思とは関係なくハラハラと涙が頬を伝った。

どうしよう、どうしよう。

「彩、どうした?!気分でも悪いのか?!」

「凌央さん……違うの」

心配そうに私を見下ろし、二の腕を掴んだ凌央さんに、キュッと胸が軋む。

「彩、」

ああ。

きっとこれは……感情だ。

人の、感情。

「彩」

「大丈夫。……感動しただけです」

私のこの言葉に凌央さんの唇が僅かに開いた。

「凌央さん、赤って一色じゃないんですね。怒りの赤、悲しみの赤、嫉妬の赤、喜びの赤。それから……愛情の赤も。私、こんなにも沢山の赤に出逢ったのは初めてで、ちゃんと説明できませんけど涙が出て、」

「彩」

「っ……」

言葉の途中で凌央さんの腕が私の腰に回った。

間近に逞しい身体を感じて眼を見開いた時、うなじに凌央さんの息がかかった。

「ありがとな、彩」

ギュッと、更に私の胸は軋んだ。

「……はい、凌央さん」

嬉しいのに悲しくて、切ないのに幸せで、このときの私には、これ以上の返事が出来なかった。
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