恋愛ノスタルジー
「あの、圭吾さん。大丈夫ですか?」

賑やかなクリスマスソングと、あちこちに灯るライト。

私は辺りの喧騒に負けないように声を張り、少し背伸びをして圭吾さんに顔を近づけた。

そんな私を、圭吾さんは少し驚いたように見下ろしている。

「圭吾さん?」

「あ……」

漸く我に返ったように圭吾さんが私の頬に触れていた手を引っ込めた。

「何かあったんですか?」

「いいや。帰るぞ」

踵を返して歩き出しながら、圭吾さんは私の手を握った。

「はい」

その手が優しい。

絶対何かあったんだ。

良かった。

圭吾さんにいい事があったなら、私も嬉しいもの。


*****


「そういえばもうすぐクリスマスだが」

夕食を終え、片付けを済ませて手を拭いていた私に圭吾さんが声をかけた。

「彩はどうするんだ」

……クリスマス。

「私は何も予定はないですけど……あ」

圭吾さんに言葉を返していた途中で、私は慌てて口をつぐんだ。

……何素直に返してんの、私。

多分圭吾さんは、花怜さんとクリスマスを過ごすんだ。

だから私に一応それを伝えようとして……。

「あの、圭吾さん。私に気兼ねしなくていいですよ。どうぞ花怜さんと楽しいクリスマスを過ごして下さい」

空になっていた圭吾さんのワイングラスにワインを注ぐと、私は笑って圭吾さんを見た。

「……彩は?」

「私は……」

私にクリスマスの予定はない。

でも……。

「凌央さんが個展に向けて画を描いてるんです。徹夜で仕上げなきゃならなくなると私も泊まり込みでアシスタントに入るからクリスマスの予定は入れてないです」
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