恋愛ノスタルジー
あなたが分からない
*****

一週間後。

『彩、今日は色彩会議があるから帰るのが遅くなる。悪いけど夕食作っておいてくれるか?』

定時勤務が終わり、パソコンをシャットダウンしようとしていた時にかかってきた電話は凌央さんからだった。

「分かりました。なにかリクエストありますか?」

『……和食。肉じゃが食いたい』

肉じゃが。可愛い。

イケメン社長にして天才画家も、結構素朴なんだ……。

『なんだよ』

思わずクスッと笑ってしまった私に、凌央さんは不服そうに言った。

「なんでもないです。じゃあ、作っておきますね。お仕事、ほどほどに頑張ってくださいね」

『ああ』

……会えないのは残念だけど、なんか嬉しい。

「なーにー?今のラブラブな感じの会話ー」

「わっ」

タップしたばかりのスマホを取り落としそうになって、私はキャスターを転がしながら近付いてきた成瀬さんを振り仰いだ。

「旦那?!」

「まさか!圭吾さんじゃないですよ」

平静を装いつつ成瀬さんから視線をそらし、デスクの上の書類をクリアファイルに入れると、私はコホンと咳払いをした。
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