恋愛ノスタルジー
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六時を少し過ぎた頃、私は漸くマンションに到着した。

当然ながら圭吾さんの姿はない。

そういえば三時からなにも飲んでいなくて喉がカラカラだ。

自室を通りすぎ、キッチンのテーブルに荷物を置いた途端にスマホが鳴った。

画面には《峯岸グループ建築ウェブデザイン課》と出ている。

……なんだろう。

「はい」

『あ、彩せんぱーい?』

ひとつ後輩で同じ課の菜々ちゃんだ。

「どうしたの?」

菜々ちゃんは少し困ったように話し出した。

『RAコーポレーションの立花さんって方から彩先輩にお電話なんです。もう退社しましたってお伝えしたんですけど、どうしてもご用件があるとかで……電話番号伺ってるのでスマホに送っていいですか?」

背中に氷を押し当てられたようにヒヤリとした。

RAコーポレーションとは、凌央さんが経営している画材道具の企画開発と販売を手掛けている会社だ。

そして、立花さん。

すぐに立花さんと凌央さんのキスシーンが脳裏に蘇る。

今も私は凌央さんの家へ通っているけれどあのキスの日以降、私がいる時に彼女が凌央さんの家に来ることはなかった。

その立花優さんが私に何の用だろう。

……恐い。でも避けるわけにはいかない。

「うん。菜々ちゃん番号添付してくれる?」
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