国王陛下の極上ティータイム
扉が閉まった途端魔法が解けたように笑みは消える。台車を押して茶室に戻る中、胸が苦しくなって泣きたくなった。

どうして人は幸せに恋をしているのに、自分はそうではないのだろう。そんな思いがクラリスの胸をいっぱいにしていく。

身の程知らずな恋をするからだと頭では分かっているのに、この想いを全部忘れようとしたのに、実際はどんどん気持ちが溢れてしかたないのだ。忘れるなんて到底できない。できそうにない。


悶々とした気持ちのまま台車を押していると、回廊にさしかかった。そこを衛兵を始めとした様々な色の軍服を着た騎士達が忙しなく動き回っている。

騎士団の人々だろうことはすぐ分かったが、普段城に出入りするのは近衛兵団の人々だけで、黒や赤など他の騎士団が出入りしているのは滅多にないことだ。

クロードのように団長格が城に出入りするのは分かるが、おそらくそうではない人々もいるように見受けられる。どうして、と思っていると騎士団の人々の会話が聞こえてきた。


「フォルストへの出撃命令はまだ出んのか!」

「国外との連絡が途絶えて1週間が経つぞ!物質も届かないというのに!」

「陛下がお決めにならない限りはこちらも動けまい」

「歯がゆいことだ!陛下も早くお決めになっていただきたい!」

「今は団長方が陛下を説得されているところだ。会議が終わればすぐに出撃のご命令が下ることだろう」

それから騎士団の人々は遠ざかって、話し声は聞こえなくなっていく。けれど、話の内容を理解するには充分だった。


市場に出掛けたときにクラリスが想像したのは、最悪のシナリオ。この通りにならなければ良いと思ったことが、今や現実のものになろうとしている。

クラリスの心はざわめき始めた。

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