国王陛下の極上ティータイム
できるなら、その苦しみを少しでも取り除いて差し上げたい。お茶係の自分にできることなんて限られている。それでもそう願わずにはいられなかった。


「ならばどうか、ランティス様に茶を届けてください」


ディオンの言葉にクラリスは目を見開いた。


「ディオン殿、それは陛下のためにならないかと。私のような者と親しくしていたのでは、陛下に良からぬ噂が立ちかねません。陛下を危険な目に遭わせてしまうかもしれません」


だからこそクラリスは一線を引いた。名前を呼ぶことを避け、茶を届けることを辞めた。そうやってランティスを守ろうとしたのだ。


「クラリス殿がクロード殿の言葉を気にされているのは分かっています。確かにクロード殿の言葉も一理あるのかもしれません。けれど今のランティス様にはクラリス殿が必要なのです」

ディオンはクラリスの瞳を見据えた。


「お願い致します。王宮お茶係クラリス殿。陛下に茶を届けてくださいませんか」


それは大きな声だった。回廊にいる人ならばみな聞こえてしまうのではと思われるほどで、実際に回廊にいた人々が何事かとクラリスの方に視線を向ける。


「ディオン殿…」


クラリスは困惑していた。けれどこれこそがディオンが自分のためを思ってくれていることなのだろうとも思った。

国王陛下側近のディオンが王宮お茶係のクラリスに、陛下にお茶を届けるように頼んでいるところを見せつける。そうすることでクラリスが心配している「妙な噂」が立ちにくいようにしてくれたのだ。


「かしこまりました。お届けいたします」


クラリスは心から感謝して、深く頭を下げた。




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